登場人物
瀬名涼葉:高等部一年生。容姿端麗で男子の告白を断り続けるクラスの「高嶺の花」。完璧なメイドを目指すが飛馬への素の感情の間で揺れ動く。

坂木飛馬:高等部一年生。主人公。瀬名涼葉と同じクラス。とある事情から、 瀬名涼葉を住み込みのメイドバイトとして雇うことになった。
本編
そもそも瀬名涼葉という存在について、少し説明が必要かもしれない。
クラスの高嶺の花。
明るくて気さくで、誰とでも分け隔てなく話す。女友達も多く、面倒見がいい。
笑い声が教室に響くと、周囲の空気が変わる。そういう女の子だ。
なのに男子からの告白は全部断っていたらしい。だから「高嶺の花」と呼ばれていた。明るくて親しみやすいのに、恋愛だけは一切受け付けない。

俺は端の席から、教室の真ん中にいる瀬名さんを遠くから眺める人間だ。
とはいえ、入学して間もない頃に接点が一度だけあった。
昼休みの教室。男子が数人たむろして喋っていた。俺は机に突っ伏して、眠るでもなく聞くでもなくそこにいた。
「瀬名さんってあれだけ可愛いんだから彼氏いるのかな?」
「さあ。部活もしないでさっさと帰るよな」
「パパ活してるって噂聞いたことない? まあ、めっちゃルックスが良ければおっさんも金出すわなぁ」
下衆な笑い声が教室に響く。
「マジで? じゃあ非処女なの? あんなに可愛いのに……もったいない」
「金出せばやれそうってこと?」
くだらない。こういうのは無視に限る。
でも口が勝手に動いた。割り込むつもりはなかった。
「瀬名さんさ、放課後におばあちゃんと一緒に買い物してるの、何度か見たことあるよ。すごく楽しそうだった。毎日急いで帰るのはおばちゃんを心配しているからじゃないかな」
男どもが振り返る。
「そういえばそんな話、聞いたことある気がする」
一人が言いかけて、もう一人が続けた。
「確か、両親いなくて、お婆さんと二人暮らしなんだっけ?」
「あー……」
そこで誰も続かなかった。
家の事情には踏み込まない。言葉にしなくてもそういうルールが男子の間にはある。
気まずくなった空気のまま、話題はどこか別に移り、しばらくしてパパ活の噂は立ち消える。
俺にとっては本当にそれだけのことだ。
昔、俺にも祖母がいた。一緒に買い物へ行き、野菜を選んで笑い合っていたものだ。祖母は既に他界している。
近所のスーパーで瀬名さんとおばあさんが楽しそうに歩いているのを見かけた時、邪魔してはいけないと思い息を潜めた。
その延長上であり、正義感などではない。パパ活の噂が消えたのは結果論だ。狙ったわけではない。
* * *
そんなある日。
夜の九時過ぎ、父からビデオ通話の着信があった。向こうはスーツ姿で背景がオフィスだった。仕事の合間に連絡を寄越してきたらしい。
「飛馬、最近ちゃんと食ってるか?」
「食ってるよ。コンビニだけど」
「それがダメだって言ってるんだ。だからさ、お前の借りているマンションに住み込みのメイドを雇おうと思ってる」
「は?」
「家事全般やってくれる人。お前が一人で暮らしてるのが前から心配でな」
父は言い出したら聞かない。決めたらすぐ動く。だから今の会社を一代で大きくできたことを俺は知っている。
「条件は何かあるか? どんな人がいい?」
ここで俺はつい口を滑らせる。
100%冗談だった。
「じゃあルックスが良い人で。あと、性のご奉仕もお願いしたいかな?」
「ふむ」
言った瞬間に後悔した。AVやエロマンガの見すぎだ。言った後で自分にツッコむ。
「あ、最後のは冗談だけど」
「はいはい、わかった、了解」
父は軽く笑って電話を切る。
その様子に、本気にしていないだろう。そう思っていた。
数日後。
メッセージが届く。
『田中に任せて破格の報酬で募集をかけた。応募多数の中から面接して一番優秀だった瀬名涼葉って子を採用したから』

早い。募集から面接までもう終わっているとは。田中さんは父の執事をしている超有能な人だ。
だけど……瀬名涼葉って。
同じクラスにいる高嶺の花の女子? 年齢も俺と同じ歳が書いてあり可能性は高い。
何かの間違いだろう。本当に瀬名涼葉がやって来るとは思わなかった。
* * *
しかし、同居初日。
瀬名さんは制服のまま大きなボストンバッグひとつで現れた。
実家から通える距離なので、最低限の私物だけ持ち込んで残りは週末に取りに帰ると言っていた。
空き部屋に荷物を置いた瀬名さんが、着替えてから出てくる。
メイド服だった。

黒を基調にした、白いエプロンと白いヘッドドレス。スカートは膝上で、太ももの素肌が覗いている。
腰まで届く黒髪がエプロンの紐に沿って流れていて、瀬名さんの白い肌と黒い髪のコントラストが、絵みたいに綺麗だった。
「お待たせいたしました。本日より勤務を開始いたします」
感情を消した事務的な顔。ただ耳の先だけがほんの少し赤い。メイド服姿を見られているのが恥ずかしいのか、それとも俺の視線に気づいているのか。
「よ、よろしく」
それだけ絞り出すのが限界だった。
こうして同居生活が始まった。
同級生が俺の家でメイド服を着ている。料理をして、掃除をして、洗濯をして「ご主人様」と呼んでくる。教室では何メートルも離れた場所にいた存在が、同じ屋根の下に暮らしている。
……そして。同居生活が始まって三日が経った。
俺はもう瀬名さんの料理なしでは生きていけない体になりつつある。
朝、目覚ましが鳴る前にキッチンから出汁の匂いが漂ってくる。味噌汁の香りだ。顆粒だしの安っぽい匂いじゃなく、鰹節から丁寧にとった出汁の匂い。
リビングに出ると、テーブルには白米、味噌汁、焼き鮭、ほうれん草の胡麻和え、出汁巻き卵が並んでいる。瀬名さんはメイド服のエプロンで手を拭きながらテーブルの脇に立っている。両手が前で揃えられて、腰が真っ直ぐ伸びている。
「おはようございます、ご主人様。お食事の準備ができております」
俺は席について箸を取る。まず味噌汁をひと口すすった。

「……うま」
思わず声が出る。出汁が口の中で広がって体に染みるような旨さだ。コンビニ弁当が主食だった俺の食生活を根底から覆す味だ。
出汁巻き卵を箸で切ると、じゅわっと出汁が滲む。口に入れた瞬間に笑ってしまいそうになる。ふわふわで、甘くて、でもちゃんと卵の味がしている。
「瀬名さん、これめちゃくちゃうまいんだけど」
瀬名さんがぴくりと反応する。口元が緩んでいた。
「お口に合いましたでしょうか」
「合ったなんてもんじゃない。今まで食った出汁巻きで一番うまい」
大袈裟じゃなく本音だ。
瀬名さんの唇がぴくっと動く。
「ホント? よかったー」
普段の教室で友達と話すときの瀬名さんの声だった。人なつっこくて明るい声に、こっちの頬まで緩んでしまう。初対面の人ともすぐ仲良くなるのだろう。

直後、瀬名さんの表情が凍る。
目が見開かれ、唇が薄く開いたまま止まっている。
「……あ、いえ。お口に合ったようで何よりでございます」
事務的な声に戻ったのが実に残念だ。普通にしていいと伝えても、緩みになるのでとスンとされてしまう。
瀬名さんはキッチンへ戻っていく。耳の先がほんのり赤いのが髪の隙間から見えている。
昼食も夕食も同じだった。
何を作らせてもうまく、生姜焼きも夕食の肉じゃがも絶品だ。
「祖母直伝の味付けでございます」
「俺も親が留守がちでさ、ずっとばあちゃん子だったからこういう味に弱いんだ」
思わずそう口にすると、瀬名さんが小さく目を見開いた。
「実は私もなんです。……ふふ、坂木くんもなんですね」
教室で友達と話しているときの顔になっている。かわいい。
俺がじっと見つめていることに気づいたのか、瀬名さんは慌てて咳払いをした。
「……失礼いたしました。お食事をお楽しみくださいませ」
メイドの声に戻って背筋を伸ばす。でも口元だけがまだ少し緩んでいた。
* * *
学校では今まで通り他人だった。
休み時間、瀬名さんの席の周りに女子が集まっている。
「ねえ瀬名さん、他クラスの男子から告白されたって本当?」
「あー、うん。でもね、お断りしちゃった」
「えー、もったいない! 瀬名さんって好きなタイプとかいないの?」
「タイプ? うーん……飾らなくて、さりげなく優しい人かな」
「それ誰のこと? もしかして心当たりある?」
「ないない、全然ないって! ただの理想! それに今は、それどころじゃないし」
いつもの瀬名さんだ。友達の冷やかしを手を振りながら笑い飛ばしている。
教室の真ん中で輪の中心にいる瀬名さんは眩しくて、俺は端の席から横目で見ているだけだ。
でも……俺と同居していて、俺のために料理を振る舞ってくれたり、身の回りの世話をしてくれる。
俺と瀬名さんだけの秘密だと思うと、今でも信じられないと思うのと同時に、ちょっと優越感を抱いてしまう。
* * *
同居七日目の夜。
風呂に入ろうとして廊下に出た俺は、脱衣所のドアに手をかけた。中から物音がしていることに気がつかなかった。
「あっ?」

瀬名さんが立っていた。
メイド服を脱いだばかりなのだろう。白いブラジャーとショーツだけの姿だ。
肌が白い。肩から腕にかけてのラインが蛍光灯に照らされて、腰のくびれから太ももへ流れる曲線がまっすぐ目に飛び込んでくる。
ブラジャーに包まれた胸が呼吸のたびにかすかに上下していて、鎖骨から谷間にかけて汗が一筋光っている。
「あ……っ……きゃっ」
瀬名さんが小さな悲鳴を上げ、すぐに息を呑む。
脱いだメイド服を胸の前にかき抱くように持ち上げるが、間に合っていない。
腹部のくびれも太ももも見えている。白い肌が蛍光灯の下で嘘みたいに眩しい。
「も、もう! 早く出ていってよぅ」
瀬名さんは言ってすぐにはっと目を見開き、慌てて訂正する。
「し、失礼いたしました。こちらの不注意です」
「ご、ごめん! 音聞こえなくて……」
俺は廊下に戻り、咄嗟にドアを閉めた。
廊下に立ったまま、心臓がうるさい。
目に焼きついて離れない。白いブラジャーの縁からこぼれそうな胸の膨らみ。
くびれた腰から太ももにかけてのなめらかな曲線。首筋に光った汗の一筋。ショーツの布地が肌に沿っていた輪郭。
リアルな女子の半裸なんて初めて見たので興奮が収まらない。
自室に戻ってベッドに倒れ込んだ。
目を閉じても瀬名さんの下着姿がフラッシュバックする。白い肌。鎖骨。谷間。腰のくびれ。
そういえば、同居が始まってから一人でオナニーをしていなかった。
でも今夜は無理だ。この興奮のまま眠れるわけがない。
スウェットの紐に手をかけ、そこで手が止まる。
「ん……? あれ?」
変だ。妙にスッキリしている。先ほどの下着姿であれだけ興奮しているのに、下腹部に溜まっているはずのものが弱い。
そういえば、ここ数日の朝、目覚めたときに倦怠感があったような気がする。
もしかして?
俺は懸念を確かめるため改めて風呂に入り、ベッドに横になった。
* * *
どのくらい経っただろう。
かちゃ。
ドアノブが回る音がした。
声を出そうとして、喉が詰まる。何て言えばいい。「起きてるよ」か。「何しに来たの」か。どれも違う。
ドアが静かに開く。
スリッパの足音がしない。裸足だ。
足音が止まった。ベッドの脇だ。
「今日も……寝てる、よね?」

確かにいつも寝ている時間だ。
思わず目を閉じてしまったが、声を上げるなら今だ。「起きてる」と声をかければいい。でも、たったその一言が出ない。
もっとも、部屋は暗いので、俺が起きていることに気付いていない。
瀬名さんはいったい何をするのか? 興味が出てしまった。俺の予想通りであれば……。
布団がゆっくりとめくられ、腰から下が夜の空気に晒される。
瀬名さんの指先が俺のスウェットのウエストに触れた。ひんやりとしている。
「では、契約通り……では無いけど……失礼します」
ためらうように一度止まってから引き下ろす。
その手順に好きでしているわけではないというような抵抗を感じる。
しかし、俺の竿は半勃起していた。さっきの下着姿の興奮がまだ残っている。
瀬名さんの手がペニスに触れる。
竿の根元を包み込むように添えられる。手のひらが温かい。
「……ん」

瀬名さんが小さく息を漏らす。手で竿を扱きながら、空いた手で亀頭の先端に触れている。
気持ちがいい。どんどん自分の竿が固くなっていくのを感じた。
まだ緊張している様子はあるけど、この感じだと多分、前から行っている気がする。
瀬名さんの手が止まった。
「一週間続けても慣れないなあ……続けます」
一週間? 俺が眠っている間に、こういうことをしていたの?
そして……温かいものがペニスを包むのを感じる。
口だ。口内の温もりと湿り気が伝わってくる。同時に戸惑いも感じられる。ぎこちないところがあるような気がした。
「んっ……」

瀬名さんの唇がゆっくりと亀頭を包み込む。柔らかい唇の感触と内側の粘膜がぬるりとペニスに触れる。
そのまま舌が動き始め、亀頭の丸みに沿って舌先がくるりと回り、裏筋を下から上へなぞり上げる。
やばい。気持ちが良すぎる。声が出そうになる。
瀬名さんの口の中は驚くほど熱くて、唾液がたっぷりと分泌されてペニス全体を滑らかにヌルヌルと包んでいる。
ちゅぷ……じゅる……っ。

静かな深夜の寝室に、いやらしい水音が響く。
瀬名さんの頭がゆっくりと上下する気配が伝わってくる。亀頭を口に含んだまま、舌で裏筋を刺激しながら竿の半分ほどまで咥え込み、そこからゆっくり引き上げる。
引き上げるときに唇がきゅっとすぼまり、亀頭のくびれに引っかかるように吸い上げている。
リアルにフェラをされるなんて初めての経験で、途轍もなく興奮してくる。
「んっ……ちゅ……ぷ、ん……んくっ……んん……ちゅるっ……ん……」
瀬名さんの鼻から漏れる吐息が俺の下腹部にかかる。温かい。呼吸が荒くなっているようだ。
本当はもっとぎこちなかったはずだ。
それが今、舌の動かし方も口の中の圧も、俺が気持ちよくなるポイントを的確に捉えている。
クラスの高嶺の花が、俺のベッドに忍び込んでこれを……。
ちゅぱ……じゅるるっ……。
瀬名さんが深く咥え込む。竿の根元近くまで唇が降りてきて、喉の奥が亀頭に触れる。瀬名さんが小さくえづく気配がして、少しだけ引き戻す。だがすぐにまた深く。慣れていないのに挑戦しようとしている。
「ん……ぷ、はっ……ちゅっ、じゅる……ん……んんっ……はぁ……んっ……」
そして、さらに……。
「今日は……その……胸でしますので、これで許して下さい……えっちはまだ怖いので」
ん? 胸で? いや、それもだが、えっちはまだ怖い?
少しして、口内とは別の……肌の温もりがペニスを包んだ。

薄目を開いて見ると、瀬名さんがパイズリをしていた。すごい光景にびっくりして慌てて目を閉じる。
幸い、俺が起きていることに気付いていないようだ。一生懸命にペニスをこすっている。
口内とは違う別の快感。既に唾液で、そして我慢汁と瀬名さんの汗により滑らかに谷間で愛撫されている。
気持ちいい。
「ふっ……ふっ……んっ……んあっ……ふっ……ふっ」
瀬名さんの呼吸がさらに荒くなっている。
そして、少し遠くから濡れた皮膚がすれるような水音がした。微かな音だが、たぶん瀬名さんの太ももが擦れ合う音だろう。
くちゅっ。
義務としてであっても、嫌でも、男の肉棒に奉仕することで興奮している?
俺のペニスが一段と固くなった。瀬名さんが「んっ」と小さく驚いた声を漏らし、その反応がまた俺の下腹部を熱くする。
「もうすぐですか? では……またお口で」

射精が近いのを悟ったみたいだ。確かに何度かしていれば、射精の予感があることは不思議じゃない。
瀬名さんは再びフェラを始めた。
ちゅぱちゅぱ……じゅるっ……ちゅっ……。
リズムが速くなる。瀬名さんの頭の上下が早くなり、舌の動きがさらに激しくなる。
亀頭を吸い上げるたびにくちゅっと淫靡な音が鳴り、唾液が竿を伝って根元まで垂れ落ちている。
それにしても、気持ちいいし、エロい。彼氏でもないのに、同じクラスの女子が俺のペニスを咥えてフェラしているなんて。
下腹部が限界だった。睾丸の奥からこみ上げてくるものがある。熱い塊が竿の中を駆け上がろうとしている。
射精しそうだ。
ペニスが膨張し、亀頭がさらに硬くなっているのを口の中で察知しているはずだ。瀬名さんは口を離さなかった。
受け止めるつもりだ。口の中で。
「んっ……んん……ちゅぷ……」
限界だった。
俺の腰の奥で快感が爆発する。熱い液体がペニスの根元から駆け上がり、亀頭の先端から噴き出す感覚があった。
びゅるっ! びゅっ! びゅっ!

精液が瀬名さんの口の中に放たれる。同時に瀬名さんの体がびくっと震えた。
だけど口を離さない。唇がペニスにきゅっと食らいつき、舌が亀頭を包み込んだままだった。
「んっ……んんっ……んくっ……んくっ……」
どくっ、どくっ。
止まらない。熱い精液が瀬名さんの口内に注がれていく。瀬名さんの舌が射精のたびに亀頭をなぞるように動いている。
搾り取ろうとしているのか、それとも無意識なのか、その舌の動きが射精の快感を増して、ペニスの付け根がとろけそうになる。
もう今さら起きていたとは言えない。言えるわけがない。ここまで黙っていた俺を瀬名さんはどう思うだろう。でも瀬名さんの顔が見たい。
瀬名さんの喉が鳴る。
こくっ……こくっ……。
精液を飲み込んでいる。その喉の音が暗闇の中にやけに大きく響く。
高嶺の花が俺の精液を飲み下している。その事実がさらに俺を煽り、収まりかけていた射精がもう一段押し出される。
どびゅっ……。
瀬名さんの喉がもう一度大きく鳴り、鼻から「ん……っ」と詰まった声が漏れる。量が多すぎて飲み込むのが追いつかないのだろう。
ようやくペニスの脈動がゆっくりと弱まっていく。
精液の放出が収まり、射精の余韻だけが腰の奥をじんわりと痺れさせている。
瀬名さんがゆっくりと口を離した。
ちゅぷ……。
唾液と精液が混ざった糸を引いているのだろう。暗闇の中でもその粘ついた音だけが妙にはっきり聞こえる。
「……はっ……はぁ……うう……変な味……はぁ……はぁ」

荒い息づかいが続く。
すぐに、口元を手の甲で拭う衣擦れの音がする。唇の端に精液が残っているのかもしれない。やはり不本意なのか、少し苦しそうな様子だ。
精液を飲んでくれたという高揚感の中で、一方的にされていたはずなのに少し申し訳ない気がした。
「やっと全部飲めた。もうっ……初日からずっと毎晩やってるのに……量、全然減らないのなんで?」
やはりそうだったのか。同居の初日の夜から、瀬名さんは毎晩こうして俺の部屋に忍び込み、眠っている俺のペニスを口に含んで射精させていたのだ。
「ご奉仕は以上です」
瀬名さんがスウェットを元の位置まで引き上げ布団をかけ直す。この一連の動作もまた慣れきっている。証拠を残さないように毎晩繰り返してきたのだろう。
瀬名さんが立ち上がる気配がした。
だが足音が動かない。ベッドの脇に立ったまま、何かを言いかけて止まっている。
「……明日は、口だけじゃなくて……ちゃんと、最後まで、します……初めてだけど……契約だから……」
声が震えている。あれだけ陽キャなのだから、経験があってもおかしくないとは思っていた。
パパ活の噂もそういう偏見から生まれたものだろう。
でも、初めて……つまり瀬名さんは処女だということになる。だとすると、慣れない行為に抵抗があり、したくないのは当然だろう。
「本当は初日からしなきゃいけなかったのに……もう一週間も逃げちゃった……でも……明日は」
その言葉の意味を俺の頭は正確に理解していた。

「頑張ろっと……ふう……あっ、失礼します」
最後にぽつりと呟いて、瀬名さんは部屋を出ていった。
ドアが閉まる。
暗い天井を見上げて思う。
クラスの高嶺の花が、一週間にわたって毎晩俺のペニスをしゃぶっていた。
そしてなんと明日、俺に処女を捧げようとしている。
でも、どうしてそこまで? 契約だとは言っていたが。
声に絶望をしているような暗さはなかった。かといって積極的に「性のご奉仕」をしたいわけでは無いようだ。
当然と言えば当然だ。俺に恋心を抱いているわけじゃないだろうし。
だけど、嫌々フェラしながら感じる様子は少し興奮してしまう。
「でもま、俺も契約とやらを確かめないとな。瀬名さんとエッチする前に」
執事の田中さんに契約の中身と瀬名さんのことを聞いてみよう。
リアルでのフェラがこんなに気持ちいいのなら、セックスはどれ位気持ちいいのだろうか。
瀬名さんの事情は気になるけど、こんなチャンス逃がすことなんてできない。
はやる気持ちを抑えつつ、目を閉じるのだった。
(続く)

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