・他のストーリーと関係ないお話です。
登場人物
ヒロイン:
佐藤あかり、高等部1年。

主人公:
高橋直人、高等部1年生。中等部の時から付き合っている彼女がいる。しかし……。
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本編
放課後、日が傾き黄昏の時刻が迫る頃。
俺は鍵を壊し学園の屋上に足を踏み入れた。

屋上の風が、髪を乱暴に掻き回す。
フェンスを登り手をかけて下を覗き込むと、暗がりの地面が揺らめいて見え、吐き気がこみ上げた。
外側の縁に足を揃える。僅かな風が体を揺らす。
一歩を踏み出せば、このまま落ちて命を落とすだろう。
――もういい。
胸の奥を抉る光景が、まぶたに焼きついて離れない。
付き合っている彼女が知らない男と笑っていた。俺といる時よりも、ずっと楽しそうに。
昨日のこと。誰もいない教室で、男と抱き合いキスをしているところを見つけた。男の片手は、スカートの中にツッコまれており、彼女も慣れた様子で……うっとりとした表情で受け入れていた。
もう、その関係は察して余りある。
何年付き合ったとか、どれだけ深い仲になったとか。全部、無意味だったんだ。
「ふう」
息をつく。
振られたくらいで飛び降り? 俺も他人の話を聞いたときはそう思っていた。
重すぎる。ダサい。バカじゃないの?
でも、自分がそういう立場になるとその気持ちが分かる。
「……終わりにしてやる」
身体を前に傾けかけたそのとき、
「待って! 飛び降りないで!」
甲高い声が、風にかき消されず耳に届いた。
振り返ると、フェンスの内側に女子が立っていた。
制服姿の長髪の子。肩を上下させ、息を切らしながらこちらを見つめている。
「……誰?」
「……佐藤、あかり。一年」
名前を名乗る声は震えていた。そうか、同じ学年か。
あかりは恐る恐る近づき、フェンスに手を伸ばした。
「あなたが……前に傾いたのを見て……私まで足がすくんで、胸が苦しくなって……本当に一緒に落ちちゃいそうで……怖くなったの」
あかりの言葉は途切れ途切れで、それでも必死だった。
俺は苦笑して、フェンスを握る手に力を込める。
「笑えるな。初対面なのに、そこまで?」
「うん。ただ……あなたが飛んだら、私も終わっちゃう気がしたの。だから……止めたくて」

泣きそうな顔でしがみつくように言うその姿に、胸がざらつく。
他の男に笑っていた“あいつ”と違う。
必死に涙を流している、この子は――俺のことを本気に心配している。
「じゃあ、名前くらい教えないとな」
俺は自嘲気味に口を開いた。
「高橋。高橋直人だ」
「止めたいの、高橋くんを」
その真っ直ぐな声に、やけっぱちな欲望がじわじわと膨らむ。
「俺を止める、って言った?」
「うん」
迷いのない即答。
震えているのに、目だけは俺を真っ直ぐ見ている。
「だったら」
わざと間を置いて、見下ろす。
涙に濡れた頬が、沈みゆく夕焼けに照らされて光っていた。
だけど、思ってしまう。大した気負いもないのに、俺を止める?
「キスしてくれたら、生きてみようかな」
呆れてこの場から去れば良い。そうすれば俺も気兼ねなく飛び降りることができる。
あかりと名乗った女は頬を押さえ、唇を噛んで俯いた。
「え……なに、それ……」
顔を真っ赤にして目を逸らされる。当然だろう。
俺を心配してくれる優しさがあるように思えたからそれに縋りたくなった。
くわえて、一目で分かるほどの美少女。肩まで伸ばした髪、長いまつげ、整った顔立ち。

初めて言葉を交わす仲でも十分に魅力的に映った。俺を裏切った女よりはるかに。
でも、本当にそうなのか? 俺は試すような言葉を吐く。
「ほら、ムリだろ? だったら——」
「……いいよ。キスしよう。どうせ……私なんて誰も見てないし。あの人だって……私なんか眼中になかった」
ぽろりと漏れた言葉。
諦めと、どこか怒りを孕んだ響きに、俺は一瞬息を止める。
失恋でもしたのだろうか?
あかり自身も気づいていないのだろう。好きな誰かに向けられた無意識の復讐心でその言葉を発したことを。
「……だから、死なないで」
小さく呟き、肩を震わせながら目を閉じる。
どうにでもして、という投げやりな感情と、俺を助けたいという必死さが入り混じっていた。
「わかった。いいだろう。一旦そっちに戻る」
「うん」
俺はフェンスを越え、屋上の内側に戻った。
まっすぐにあかりの前に足を進める。約束のキスをするために。
近づいてみるとやはり可愛らしい。見た目だけでキスしたくなるほどだ。
「いいんだな」
こくりとうなずいたのを見てから、俺はあかりに顔を近づけ、ゆっくり唇を重ねた。

最初は触れるだけの軽い口づけ。久しぶりに感じる女の感触。
あかりは驚いたように目を見開き、すぐにぎゅっと閉じる。抵抗はなく受け入れてくれた。
「……ん」
もう一度。今度は少し長く。
「んっ……んんっ」
呼吸が荒くなり、唇が震えながら必死に受け止めようとする。
それは拙く、でも「何かを塗りつぶそう」とする強さを含んでいた。
舌先であかりの唇をなぞると、びくりと肩を揺らし、怯えた声を漏らす。
「……これ……」
「……キスだよ」
今度は深く唇を重ね、あかりの口内に舌を侵入させる。すると、おそるおそる唇を開き、不器用に舌を触れさせてきた。
ぎこちなく、拙く、それでも一生懸命に応えようとしている。
「んっ! んんっ……んくっ……」
……
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